Tuesday, May 6, 2008

国産野菜:思わぬ特需も喜べぬ 高齢化で増産困難

国産野菜:思わぬ特需も喜べぬ 高齢化で増産困難

 大分県別府市の山あいに、シイタケ栽培用の「ほだ木」約10万本が木漏れ日を浴びて並ぶ。シイタケ農家の田中信行さん(59)は「今年は勝負」とみて、増産の準備に忙しい。

 今年1月に発覚した中国製冷凍ギョーザによる中毒事件のあおりで中国産シイタケの輸入が急減し、県産乾(ほし)シイタケ相場は1月末の1キロ4957円が4月上旬には5569円に上昇した。2500円台まで落ちた99~01年の水準から見れば2倍以上。全国一の乾シイタケ産地、大分県にとって、中国産に反転攻勢をかけるまたとない好機だ。

 だが、原木を切り出し、収穫するまで約2年かかる。もうかるかはその時の相場動向次第。予想が外れた時のことを考えれば、工場のように人を雇ってまで増産するのは難しい。年間3トン前後の生産量を誇る県内トップクラスの栽培農家の田中さんでも「家族経営だからやっていける」といい、増産は10%強が限度という。

 90年代から急増した中国産の輸入量は、残留農薬問題などの影響で04年以降、減少に転じた。県椎茸(しいたけ)農業協同組合は「国産復権のチャンス」と増産を奨励している。県も08年度から、異業種の企業が農業法人を設立すれば、設備投資費用を最大75%助成する支援策を打ち出した。公共事業削減で経営が苦しくなった建設会社が、廃校となった小学校のグラウンドで栽培を始めるなどの動きも出始めている。

 とはいえ、県内の栽培農家の平均年齢は68歳。酪農や他の畑作との複合経営も多いため、シイタケ増産の余力に乏しく、08年の植菌数(植え付けた菌の数)は、昨年比10%増にとどまる。「国産志向」の追い風を産地はまだ生かしきれていない。【後藤逸郎】

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 中国製冷凍ギョーザによる中毒事件をきっかけに中国産野菜の輸入が減り、国産野菜の需要が高まっている。安い中国産に押されてきた国内産地には思わぬ特需だが、高齢化、後継者難などに悩む農家からは、戸惑いの声も漏れる。突然の「国産回帰」に揺れる産地の実情を探った。

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国産野菜:増産か我慢か 先行き不安の農家苦悩

 中国製冷凍ギョーザによる中毒事件発覚後の国産野菜の不足と高騰は、需要を目の前にしても生産増に応じきれない日本農業の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにした。担い手の高齢化や需要の先行きが読めないことが背景にあるが、安い輸入品に対抗するために進めてきた顧客の囲い込み、高付加価値化の取り組みが、逆に増産の足かせになっている面もある。中国産の激減で、食材を使う側の外食産業や食品加工業者の右往左往も続いており、生産、消費それぞれの現場で混乱が深まっている。【坂井隆之、行友弥】
 ◇「顧客との関係が…」ニンニク栽培の青森・田子

 ニンニク出荷量で全国の約8割を占める青森県。中でも田子(たっこ)町のニンニクは品質の良さで全国的に有名だ。

 地元卸売市場で取引されるニンニクの最高値は1月は1キロあたり2100円だったが、ギョーザ事件をきっかけに急騰。4月には3700円をつけた。

 「一部の組合員が農協を通さず、市場に直接出荷するようになった」とこぼすのは、田子町農協にんにく課の新井田文雄係長(49)だ。同農協は農家の経営安定のため「固定客」を重視。形式上は全農(全国農業協同組合連合会)や首都圏の卸売市場を通すが、実際は年間を通じて特定の顧客に決まった価格で売る契約栽培に近い方式だ。それが「市場に出せば農協の倍の値で売れる」(地元農家)ようになり、浮足立つ農家も現れた。

 6~7月には今年産の収穫も始まるが、販路や価格はほぼ決まっている。目先の利益を追って顧客との約束を破れば、せっかく築き上げてきた信頼関係が崩れる。農協にとって今の高値はむしろ頭痛の種になっている。

 一方、今秋の増産には消極的な農家が多い。約1.5ヘクタールのニンニク畑を持つ田沼誠一さん(58)は「面積を広げるには人を雇う必要があるし、新しい畑は1、2年はいいものが取れない」と話す。種子を買えば10アールあたり60万~70万円かかるなどコストも大きい。

 安い中国産に押され、90年代に一時、1キロ300円台にまで値下がりしたニンニク。最盛期に500戸以上あった田子町のニンニク農家も約230戸に激減した。その経験から得た答えが、高品質のものを固定客に売る現在の手法だ。「高値は長続きしない。中国産が減っても、いずれ別の国から入ってくる」(田沼さん)という警戒感が、農家の慎重姿勢の根底にある。
 ◇「ブランド化の好機」サトイモ栽培の千葉・成田

 サトイモの生産量日本一の千葉県。成田市の大木博之さん(47)は、ジャガイモほどの大きさの新品種「ちば丸」の種芋を手に「産地をもう一度作り上げていく最高のチャンス」と力説する。ちば丸は県が10年がかりで開発し、今秋から本格出荷される。中国産の攻勢に苦しんできた生産者が悲願とするブランド確立への第一歩だ。

 大木さんは一度、サトイモ作りを断念している。中国産の輸入急増に加え、皮がむきにくいことなどが敬遠されて消費も低迷、価格が下落した。04年ごろまでには地元集落のサトイモ農家はすべてサツマイモなどに転作した。

 ちば丸は形が丸く皮がむきやすく、ぬめりの少ない食感が「若者の口に合う」(千葉県生産販売振興課)という。昨秋収穫した芋を今年1、2月に試験販売したところ、東京都中央卸売市場の価格(1キロ=260~280円)を大きく上回る300~600円の値がついた。今秋の収穫分は作付け前から引き合いが始まり、既に完売状態だという。

 だが、大木さんらは「極端な品薄の中、ちば丸だからというより、国産ほしさに飛びついただけという可能性もある」と慎重だ。さらに「中国産の輸入量が再び急増しないとも限らない。それでもブランド力で負けないよう腰を据えてやらないと」と付け加えた。サトイモ産地の再生は、今の追い風に乗るだけではおぼつかないと考えるからだ。

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国産野菜:外食産業も調達に必死

 外食産業などでは、食材を中国産から国産に切り替える動きが広がっているが、価格差が大きい上に量の確保も難しいため、試行錯誤が続いている。

 焼き肉店「牛角」を展開するレインズインターナショナルは、4月1日にニンニクをいったん中国産から国産に変えたが、同月中旬からは韓国産を使っている。国産調達は「コストと量の両面から不可能」と判断した。

 外食大手すかいらーくもグループの中華レストラン「バーミヤン」のギョーザ用ニンニクを中国産から国産、韓国産に変えた。国産の量は3トンで全体の1割程度だが、その確保にも「国内産地を飛び回った」(広報担当)という。残りは韓国産に頼る。

 国産野菜を使っていた業者にも影響が出ている。東京・神楽坂の料亭は「ネギやシイタケの値上がりが痛い。無駄が出ないよう調理に気を使う」と話す。

 小中学校の給食でも、豚汁のサトイモを、自給率が高く価格が安定しているジャガイモに切り替えるところが目立っている。

 一方、冷凍食品業界の動きは鈍い。食材の価格差だけでなく、皮むきや包装などを国内でやるとコストが増え「『安くて便利』という商品性が成り立たない」(大手冷凍食品会社)からだ。大手のニチレイは「中国産でも厳重に安全管理していることを消費者に知ってもらい信頼を取り戻すしかない」と話す。
 ◇野菜輸入は05年がピーク

 財務省の貿易統計などによると、中国産野菜の輸入は90年代前半から増え始め、05年のピーク時には59万トンに達した。だが、中国産ホウレンソウから基準値を超える農薬が検出されるなど安全性に対する不安が高まり、06年の輸入量は前年比8%減、07年は前年比26%の大幅減となった。

 今年1月、中国製冷凍ギョーザによる中毒事件が報じられて以降は減少ペースが更に加速。2月の中国産野菜の輸入量は前年同月比約26%減、3月は35%減となった。消費者の中国産離れに加え、事件を受けて中国側が輸出品の検査を強化していることも要因だ。

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