Thursday, May 1, 2008

この人に聞きたい:千葉大法医学教室教授・岩瀬博太郎さん /千葉

この人に聞きたい:千葉大法医学教室教授・岩瀬博太郎さん /千葉
 ◇死因確定に責任者を
 ◇欧米の「検死官」日本には不在--警察の余断で解剖せぬ例も

 大相撲時津風部屋の力士暴行死事件では、司法解剖を行わなかったことが、捜査当局の立件を遅らせた。県内でも年間約7000体見つかる変死体のうち、司法解剖されるのはわずか2・3%に過ぎない。1000体以上の司法解剖経験がある千葉大医学部法医学教室教授の岩瀬博太郎さん(40)が、死因確定を巡る問題点をまとめた「焼かれる前に語れ」(WAVE出版)を刊行した。その現状を聞いた。

 --司法解剖の現状はどのように見えますか

 ▼直接携わっている者として残念ですが、「ひどい」と言わざるを得ません。本来なら、死因を確定した後でなければ、犯罪性の有無は分からないはずですが、現状は犯罪の疑いがあった場合にのみ、解剖を行っています。力士暴行死事件も最初に警察の予断が存在し、それに遺族が異議を唱えたからこそ真実が見えてきたという状態です。

 --なぜそうなってしまったのでしょうか

 ▼一番の制度的欠陥は、死因を決定する責任者の不在でしょう。法律的には検事がその責任者となっていますが、実際には警察官が代行して遺体を「検視」しています。警察は犯罪性の疑われるものだけを検事に報告すればよいことになるので、ここに警察の予断が可能性が生まれます。また、遺族への説明をする責任者も不在です。欧米の場合、「検死官」という責任者がおり、遺体検視から遺族への説明に至るまでの責任を負っています。

 --司法解剖実施の低率は、日本人が遺体を傷つけることを好まない国民性があるからだという主張もありますが

 ▼私はそうは思いません。そう言われる原因は、遺族に「なぜ解剖しなくていけないか」を説明したり、解剖結果について情報開示をしていないからだと思います。また、社会全体で死因に対して情報共有がなされていないことも問題です。昨年、問題化したパロマ事件も死因について、関係者がもっと情報を共有していれば被害の拡大を防げたのではないでしょうか。

 --近ごろ、死因の確認手段としてAi(オートプシー・イメージング=遺体に対してCTスキャンなどを使った画像診断を行い死因を探る方法)が、注目を集めています

 ▼千葉大では法医学関係として日本で初めて04年からCTスキャンを導入しました。1年目には20例中4例が検視と死因に違いがありました。肉眼所見のみに頼っている従来の方法に比べれば、CTなどの画像診断の精度は高いですが万能視することは間違いです。特に毒物などを使用した死因には無力と言っていいでしょう。この点に注意する必要があります。

 --新しい動きとして、医療事故での原因追究については「医療事故調査委」も検討されています

 ▼個々の「死」の背景には、病気や事件、事故などがさまざまな割合で関与しているので、初動段階で犯罪死だ、事故死だと区分できると仮定すること自体がナンセンスです。その意味で医療事故に限定した死因追究というのはいかがなものでしょう。また、司法解剖や警察捜査があてにならないから、事故調を作るべきだという議論になりがちですが、本来は、司法解剖や警察捜査が駄目だからこそ、それらを改善しようという議論がされるべきだと思います。【聞き手・黒川将光】

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 ■人物略歴
 ◇いわせひろたろう

 1967年、木更津市生まれ。東大医学部卒業後、同法医学教室を経て03年から千葉大医学部法医学教室教授。千葉ロッテマリーンズの大ファン。家族は妻と1男2女。

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