医療費が足りない/4 医師支える事務員
◇患者にもメリット
今年2月、岩手県立千厩(せんまや)病院(一関市)泌尿器科の診察室。阿部俊和副院長(現国保金ケ崎診療所副所長)は診察しながら、「薬は前回と同じ」「次の予約は4週間後」と、横に座る医療クラーク(事務員)の女性に、処方せんや診察予約の指示を伝えた。医療クラークは手際よくパソコンに入力していく。
「医療クラークが事務作業を処理してくれるお陰で、患者に向き合い、集中できる時間が増えた」と、阿部医師は医療クラークの良さを説く。
医療クラークは医師の指示で、カルテの記載や処方せん発行、保険会社への診断書作成など主に事務作業を行う。海外では普及しているが、日本の病院にはほとんどいない。
情報開示や医療事故対策が進むにつれ、医師の事務作業が増えている。阿部医師は「ここ10~20年で書類の作成量が3倍くらいに増えた」と話す。負担の重さは、勤務医の病院離れにもつながる。
岩手県は医師確保対策の一環として昨秋、県立3病院に試験的に医療クラークを導入、千厩病院にも2人を配置した。今年度からは県立の21病院に、医師数や病床数に応じて10~1人を導入した。
国も今年度から、医療クラークの人件費を診療報酬の加算で補う制度を始めたが、伊藤達朗千厩病院長は「診察時間を従来より多くでき、患者にとってもメリットが大きい。医師1人当たり医療クラーク1人を目指すべきだ」と訴える。
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米ピッツバーグ大に留学中の津久井宏行医師(37)は、上司の外科医や2人のPA(Physician Assistant=医師助手)とともに、4人で年間450~500例もの心臓手術(開心術)をしている。日本ではこれほど多くの手術をこなす病院は少ないが、津久井医師は「精神的にも体力的にも非常に余裕がある」と話す。なぜ余裕があるのか。
鍵を握るのは、日本にはないPA制度だ。PAは米国の国家資格で、医師の監督下で診察や治療、検査の指示、処方せん発行などができる。津久井医師の同僚のPAは、手術の第1助手、検査データ分析などの術後管理、病棟回診までこなす。全米では7万人近いPAが働いている。
米国の病院では、多様な職種が医師を支える。通常の看護師より専門的な資格で、処方や簡単な処置を行える「Nurse Practitioner=公認看護師」もいる。呼吸管理、点滴などを行うための「静脈ライン」確保、院内の患者搬送など、それぞれに専門職がいる。医療クラークに相当する医療秘書もおり、ほとんどすべての医師に秘書がつくという。
津久井医師は月曜から金曜まで毎日手術をするが、術後管理や書類作成などはPAらが担ってくれるため、早い日は午後4時に帰宅することもある。長期休暇も年に4週間くらいは取れるという。
津久井医師は「病院では、ほとんど手術室にいる。米国の心臓外科医は、まさに手術をするためにいる」と話す。そのうえで現在の状況をこう表現した。
「労働時間は日本の半分か3分の2で、年収は最低でも2~3倍だ」=つづく
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医療費が足りない/5止 負担重く往診拒む
◇「寝たきり」でも外来
富山県高岡市の高岡駅南クリニックに、寝たきりで褥創(じょくそう)(床ずれ)を抱える母親を連れ、外来受診を続ける自営業の男性がいる。褥創にはベッドの状況など家庭内の環境も関係し、治療のためには往診が望ましい。待ち時間や移動で体に負担もかかるため、塚田邦夫院長(57)はたびたび往診を勧めた。
だが、男性は「外来の方が安いから」と往診を拒む。材料費などを除いた自己負担は外来なら500円程度だが、往診だと平均約1500円。褥創が悪化すると、感染症になって命にかかわる恐れもある。外来受診の回数を増やすよう勧めても無理だという。
近年、費用を理由に往診を受けない患者が増えていると塚田院長は感じる。クリニックに来院する褥創患者を調べると、98~03年度の18人では、完全な寝たきり患者はいなかった。しかし、04~07年度の26人では6人が完全な寝たきり患者。塚田院長は「02年に高齢者の医療費自己負担が1割に引き上げられた影響だ」と分析する。
往診は病院側の負担も大きい。移動時間を含めると1時間半~2時間半程度かかる。診療報酬は毎月、初回約3万円、2回目約2万円、3回目以降約1万円で、医師や看護師の人件費、車の燃料費などを払うと黒字はほとんど出ないという。
塚田院長は毎週木曜午後を往診にあてる。「以前はゆったり往診しても、一般診療である程度収入が確保できた」。だが、医療費抑制で医療収入の減少が続き、より多くの外来患者を診る必要性が出てきた。「このままでは往診をする余裕がなくなる。在宅医療も崩壊に向かっている印象がある」と話す。
がん患者の苦痛を緩和する緩和ケアでも同様の問題がある。
健康保険が適用される緩和ケア病棟(ホスピス)では、治療の質や量に関係なく、診療報酬は患者1人当たり1日3万7800円。痛みを和らげる麻薬を大量に使ったり、高額の薬剤を使うと病院は赤字だ。近畿の大学病院の緩和ケア専門医は「病院の懐具合を心配しながら使っているのが現状。患者が十分な治療を受けられない可能性もあり、せめて薬などは出来高払いにしてもらいたい」と訴える。
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日本の医療費はGDP(国内総生産)比でみると、先進7カ国で最も少ない。財政面からは少ないにこしたことはないが、必要な医療ができないほど少ないと、しわ寄せを受けるのは患者だ。
OECD(経済協力開発機構)が各国の状況を分析し、04年にまとめた医療制度のあり方に関する報告書に、こんな一節がある。
「医療部門での賃金と価格を人為的に低く保つシステムは、最終的には問題に直面する可能性が高い。医療の人材確保や離職防止が困難になり、サービスや革新的な医薬品の供給が不足する」
まさに日本の現状そのものだ。国際的に突出した低医療費政策を転換する以外に、「医療クライシス」の抜本的な解決策は見当たらない。=おわり
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