Monday, March 31, 2008

砲丸“金メダリスト”五輪拒否を表明…怒り爆発

砲丸“金メダリスト”五輪拒否を表明…怒り爆発
「中国に開催資格ない、絶対に提供せぬ」

 チベット暴動以降、中国の五輪開催に対する抗議活動が続く中、一足早く“ボイコット”を表明していた日本人がいる。40年以上、陸上砲丸投げの「砲丸」を製造し、アトランタ、シドニー、アテネ各五輪の全メダリストが使用するなど選手から絶大な信頼を得る旋盤工、辻谷政久さん(75)だ。「(砲丸は)職人魂にかけても、絶対に(北京に)提供しない」と断固拒否を続ける真意とは-。

【反日暴動に怒り】

 辻谷さんが経営する自宅兼工場は、埼玉県富士見市の商店街の一画。家族3人で切り盛りする「町工場」から、全世界のアスリートが全幅の信頼を置く砲丸が提供されてきたが、2004年サッカー・アジア杯での観衆のマナーの悪さと、試合後の反日暴動で「こんな国に五輪を開く資格はない。私の大事な商品は渡せない」と確信した。

 「『選手には関係ないじゃないか』なんて意見もありましたが、申し訳ないけど私は職人ですから。1度決めた以上、誰が何と言おうと絶対に作りませんよ。理屈じゃない。チベット騒動をみて、やっぱり渡さないと決めてよかったと心底思っています」

【ソウルの悔しさ】

 五輪に砲丸を提供したい思いはある。ソウル五輪で選手からも見向きもされなかった悔しさから、すべてのメーカーがコンピューター制御のNC旋盤で精密に製造する中、汎用旋盤による手作業にこだわり続けた。ポイントは「重心」と「純度」。

 「現在の国際規格では、重量は7.26キログラムに対してプラス5-25グラムの誤差しか認められません。こうなると、もはや100分の1ミリ単位の仕事。重量は1回1回ラインから下ろして、はかりにかける必要があるわけです。原料は銑鉄40%、スクラップ45%、一般鋼材15%ですが、それぞれ比重が異なり、熔炉から出て冷めていく間に重たい方(一般鋼材)からわずかに下に沈んでしまうんですね」

 重心のわずかな移動は、100個の砲丸を製造すると、40個過ぎあたりから5-10グラムずつ重くなり、回避は不可能。辻谷さんは、自身の手に染み付いた手の感覚や切削音、反射光といった「職人の勘」を頼りに削り出しを行い、金属注入をせずに、重心をピタリと中心に合わせることができる。NC製の砲丸の五輪規定クリア率が3割程度のところ、7割以上をクリアする驚異的な技術を得た。

 寡占を恐れた米国の超有名スポーツメーカーから、週1万ドル(約100万円)×3年+契約金数百万ドル(数億円)で、技術指導を要請されたこともあるが、断った。すると辻谷砲丸の特徴で、選手の手にしっくりなじむと好評だった微妙な「筋入れ」が違反との見解がIOCで採択され、表面をツルツルになるまで研磨する必要に迫られた。

 「完全に嫌がらせですよね。大手メーカーの圧力はスゴいなと。それでも重心の正確さは、どこの砲丸にも勝っていた。アテネでも有力選手が私の砲丸を選んでくれて、最終的にはメダルを独占することができました。選手が一番よく分かってくれていました」

 今でも約7キロの砲丸を1日20個製造し、都合300回も上げ下げし、投げれば7メートルは飛ばせる腕っぷし。競技自体は未経験ながらシニア競技会(ねんりんピック)への出場も打診されており、こちらは前向きに検討中。近くの荒川の河川敷で、ひそかにトレーニングを積む日々だ。

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