Saturday, May 31, 2008

リニア中央新幹線:構想着々 東京ー名古屋が通勤圏に

リニア中央新幹線:構想着々 東京ー名古屋が通勤圏に

 東京-名古屋を40分で結ぶリニア中央新幹線構想が、着々と進んでいる。JR東海が昨年12月、「建設費を自己負担し2025年の開業を目指す」と表明、ルート選定など具体的な作業に入っている。開通すれば、名古屋から東京への通勤も夢ではなくなり、新幹線を併用した大阪、広島からの上京も容易になる。これまで航空機を利用していた人たちがリニアに一気に流れる可能性もあり、交通地図を大きく塗り替えそうだ。
 ◇片道1万1000円

 「鉄道発明の1825年からちょうど200年後の2025年に、新しい陸上交通革命を起こす」。葛西敬之JR東海会長は、リニアにかける意気込みをこう表現する。

 東京-名古屋のリニア事業費は5兆1000億円で、JR東海が全額自己負担でまかなう。東京-名古屋間の約290キロは、ほぼ直線で結ぶ計画。リニアにとって「命」といえるスピードを確保する狙いのほか、できるだけコストを削減したいとの思惑もある。

 都市部は地権者との調整がいらない深さ約40メートルの地下を利用し、途中も南アルプス山脈を貫くなどルートの約8割がトンネル。始発は東京駅もしくは品川駅で、名古屋までの間に複数の中間駅が設置される見通しだ。

 リニアは、新幹線の時速300キロを大きく上回る時速500キロを実現、東京-名古屋は新幹線より55分速い40分で結ぶ。東京までの所要時間だけでみれば、名古屋は横浜、さいたま、千葉とほぼ肩を並べる。運行数も「のぞみ」並みの1日最大100往復を想定している。

 気になる料金は、片道約1万1000円とする方向。定期券にした場合に現在の新幹線並みの割引が適用されるとすれば、1カ月20万円強。ちょっと高いが、名古屋在住のビジネスマンが、東京・丸の内に毎朝通勤するのも不可能ではない。
 ◇航空業界は大打撃

 東京-名古屋はリニアを利用し、名古屋-大阪は新幹線に乗り換えた場合、東京-大阪間は新幹線だけを利用する現在より45分速い1時間45分で結ばれる。一方、東京-大阪を航空機で移動する場合は、羽田、伊丹両空港から東京、大阪の中心部までの移動時間を含めると1時間40~50分かかる。リニアが実現すれば、列車と航空機の所要時間はほぼ対等になる。

 国土交通省によると、首都圏と関西圏の移動に新幹線を使う人の割合は、05年ですでに約80%と、航空機の約20%を大きく上回る。大手航空会社の関係者は「時間的な優位性が航空機にある今でさえ新幹線を使う人が圧倒的に多いのだから、その優位性がなくなればかなり厳しくなる」と警戒する。さらに、これまで航空機と新幹線が互角にシェアを奪い合ってきた東京-岡山、東京-広島でも、利用者がリニア・新幹線に流れるのは確実だ。

 羽田-名古屋の航空便は東海道新幹線が開通した1964年以降、乗客減少に歯止めがかからず82年に廃止された。まだ具体的な計画は示されていないが、名古屋-大阪でもリニアが建設されれば、東京-大阪は1時間で結ばれる。みずほ証券アナリストの高橋光佳氏は「東京-大阪のリニアのシェアは、ほぼ100%になる」と予想する。【辻本貴洋】
 ◇中間駅誘致に躍起

 リニア沿線の都府県で構成するリニア中央エクスプレス建設促進期成同盟会は、東京-大阪がリニアで結ばれれば、開業50年で沿線への観光客増などで15兆~20兆円の経済効果があると試算する。東京、大阪以外の各県に中間駅を1駅ずつ置いた場合、それぞれ年430億円程度の経済効果が見込まれるといい、沿線各県は中間駅の誘致に躍起だ。

 実際、整備新幹線が10年に延伸予定の青森県七戸駅(仮称)周辺は07年9月の基準地価が前年比3%も上昇し、下落が激しい青森県内で唯一の上昇地点となった。ただ、松本正之JR東海社長は「近接した場所に中間駅は置けない」と駅数増加をけん制、中間駅の建設費についても地元負担を求めている。

 一方、愛知県に本社を置く松坂屋の岡田邦彦会長は「新幹線以上に移動時間が短くなれば生産性がさらに向上し、元気な名古屋に大きなプラスになる」と期待を寄せる。愛知県の神田真秋知事も「今後、いろいろな議論が加速するのではないか」と期待感を示す。【鈴木泰広、中井正裕】
 ◇ことば リニアモーターカー

 車両に搭載した超電導磁石と地上(軌道)に並べた磁気コイルの間の磁力で車体を約10センチ浮かせ、高速走行する鉄道。東海道新幹線開業前の1962年に次世代の超高速鉄道として開発が始まり、97年から山梨県の実験線で走行試験を続けている。JR東海は07年、東京-名古屋間の営業運転を25年に開始すると表明した。時速500キロで同区間を40分で結ぶ計画。

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